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編集長のズボラ料理(501) ワケギとアサリのぬた

ワケギとアサリの色が失われないように和える

 3人でカウンターの居酒屋さんに行くと、中に1人はぬたを頼む。カウンターの中には、年配のおばちゃんがいる。ぬただとか、鶏レバーの甘辛煮だとか、葉っぱものと揚げの煮つけだとか、手作りっぽいおかずが得意そうに思えるからだ。店は「家庭の味」を売り物に、客はそれを求めて行く。
 おかしな話だ、家庭の味なら、家で食べればいい。それとも、家ではリストランテのようなメニューばかり食べているのだろうか。
 4~5人で大箱の居酒屋さんに行くと、中に1人はぬたを頼む。しかし、カウンターの店よりは確率が低い。1つは、突き出しで出てくることがあるので、わざわざ頼まないのが王道だからだ。もう1つの理由は、大箱の店では、焼き鳥盛合わせや串カツ盛合わせ、刺し身の盛り合わせといった、みんなで食べられるものを注文したくなるからだろう。
 そんな状況下でぬたを注文する人は、たいていはビール飲みではなく、酒飲みだといえる。そして、つまみはガバガバ食べるのではなく、はしで少しずつつまんで、口に運ぶ。酒も口の方からおちょこに近寄り、チビリとなめる。つまり、ぬた好き人間と、酒好き人間は、チマチマ人間なのだ。
 自分ではかっこうつけているつもりだろうが、ほとんどは酒好きの単なる泥臭いおっさんである。ただ、高知出身であれば、一目置いた方がいい。土佐の人間の酒好きは知られているが、ぬたもまた高知発祥らしいからだ。
 それにしても、ぬたとは、泥臭い響きだと思う。一説に、印象が沼田に通じるからだという。酢みそ和えだとか、なますだとかにすればいいのに。これからして、ぬた好きの人の風貌が思い浮かぶ。
 ぬたの主役はワケギだろう。これも地味だ。しかも、ネギの品種かと思うが、実はタマネギの仲間らしい。どこか中途半端で、自己主張に欠ける。
 そこで脇役が活躍する。脇役のメーンは、アオヤギ(青柳)だと思う。少しオレンジが入っていて、存在感はワケギを上回る。しかし、ヌタの場合は「ワケギのぬた」であって、「アオヤギのぬた」とはならない。何でだろう。
 今回はアサリを使う。殻をむいたものを売っているから、ズボラ料理には最適。ワケギはサッとゆで、食べやすい長さに切る。白みそや麹(こうじ)みそのような色の薄いみそを選び、みりん、砂糖、酢、からしを加えてよく混ぜる。わけぎとアサリを、このみそで和える。
 ワケギの代わりに、ネギでもいい。しかし、ワケギを使ってあげよう。ワケギはぬた以外には、その存在を示すことはないから。(梶川伸)2021.05.01

更新日時 2021/05/01


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