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編集長のズボラ料理(538) ミョウガ・オクラ・キュウリのご飯のおとも

ミョウガ、キュウリ、オクラの割合は好みで

 あしなが育英会が神戸市で、大学生寮を運営している。寮の先生に頼まれて、学生の読書感想文を見ていた時期がある。
 僕が毎月、何冊かの課題図書を提示し、学生はその中から2冊を選んで、感想文を書く。それがまとまって自宅に送られてくる。それを読む。
 添削するのだったら断った。自分の文章すら書くのに苦労する。他人の文章にいちゃもんをつける能力などないからだ。
 新聞記者をしていたが、取材で人の話を聞くのはとてもおもしろかった。それだけで記事を書かなくていいなら、こんないい仕事はないと思っていた。
 でも記事は書かなかければ怒られる。だから、早く定年になって、文章とおさっらばしたいと思っていた。そんな定年間際のことで、全く気乗りはしなかった。
 ところが、寮の先生は思いがけないことを言った。「学生のお父さん役になってほしい」
 なるほど、学生たちは親のどちらか、または両方を亡くしている。しかも、父親を亡くしている学生が多かった。
 そこで僕は引き受けた。ただし、添削ではなく往復書簡の形にした。感想文が書かれた原稿用紙の裏に返事を書き、送り返す。つまり、読書感想文への感想文だった。
 僕がフェイスブックを始めた時、その時の学生の何人かとつながった。そして今でもつながっている人もいる。
 うちの小さな庭に毎年、ミョウガが生える、今年は10数個を収穫できた。写真をフェイスブックに載せると、思わぬ反応があった。大学生寮の元女子学生だった。
 「私もミョウガ好きです。昔話にミョウガを食べ過ぎると忘れっぽくなるなんて読んだことあります」で始まり、ミョウガを使った“ご飯のおとも”の作り方を教えてくれた。
 10年ぶりに文章を読み、パソコンの中のメモを開いてみた。感想文で印象に残った部分を、いくつも残しておいたからだ。
 小さな親切運動本部の「涙が出るほどいい話」を読んで、彼女が書いた感想文。「幸せのハードルを低くし、常に感謝すること。それで何が変わるのだろうと思うかもしれないが、幸せのハードルを下げることで、ありがたいと思い、すべてが嬉しくなるのだ」
 この「ハードル」が気に入ったので、僕は「感動のハードルを低くする」と言い換え、さらに「感動の沸点を低くする;」とアレンジし、よく口にしていた。彼女のパクリである。
 「春の数え方」に関して。「母が春先になると何より楽しみにしているのは庭いじりである。母は待っていましたとばかりに、外に出て楽しそうに庭をいじりはじめるのだ。……母の目の前を一匹のチョウチョがフワーっと横切ったのだ。そのころちょうど、『千の風になって』が流行っていて、母はそのチョウを父だと思ってしまったそうだ」
 また、彼女のアイデアをパクった。ミョウガは縦半分に切ったうえで薄切りにする。キュウリは皮をゼブラ状に切り取り、軽く塩を振って薄い輪切りにする。オクラはサッとゆで、輪切りにする。めんつゆとゴマ油を1:1で混ぜ、それで用意した3つを和える。冷蔵庫で冷やして食べる。何と、「1:1」までそっくりパクってしましった。
 フェイスブックの文章も、締めくくりは気が利いていた。「どれだけ食べたか忘れちゃうくらい美味しいですよ。ミョウガのせいですかね?」(梶川伸)2021.09.03

更新日時 2021/09/03


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