このエントリーをはてなブックマークに追加

心にしみる一言(192) 顔を覚えておくから、また来なさい

カンピョウの天日干し

◇一言◇
 顔を覚えておくから、また来なさい

◇本文◇
 20年ほど前、高松市に住んでいた。せっかく海の街で生活しているのだから、できるだけ島を巡ってみようと思った。当時、香川県には人が生活している島が25あった。このうち、21の島を訪ねた。島々で、似たような言い方を何度か聞いた。取り上げた言葉も、その1つだった。
 丸亀市の丸亀港から小さな客船に乗った。広島の2つの港、小手島に寄り、所要時間は1時間15分ほどで、目的地の手島に着いた。港に案内板があって、それを参考に島内を巡った。亡きがらを埋める墓と拝むための墓の両墓制の墓地、拝み墓のある安養寺、江戸時代の高札所「手島制札所」、タンカー王のラーセンの別荘などだった。
 港とは反対側の海へ向かう。カンピョウの畑があって、その横で細く切ったカンピョウを棒にひっかけて干している人がいた。「1日で乾くけど、やっかいなもんや。カンピョウ同士がくっついたり、棒にひっついてしまう。夜になってから取り入れる」その人は話しながら、くっついたカンピョウとカンピョウの間に手を通した。
 島の人はよく話す。ハンター邸で作業をしていたグループには、お茶とパンのお接待を受けた。そのうちの1人の女性は、女学校のころに高松にいたという。話し込んだ後の別れのあいさつが、「顔を覚えておくから、また来なさい」だった。
 別の島で聞いた言葉が重なる。「高松の人は、島に来ないんだよね」。瀬戸内海の島は近いのに、訪ねてくる人が少ないと残念がっていた。そういう私も、手島に行ったのは1度だけ。最近、手島の再生プロジェクトを手がけている友人が、「限界集落だが、高齢化などの日本の縮図が島にある」と話していた。(梶川伸)2019.05.22

更新日時 2019/05/22


関連リンク