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心にしみる一言(271) お金がないので、柱は手作りだが、素人仕事で

教林坊

◇一言◇
 お金がないので、柱は手作りだが、素人仕事で

◇本文◇
 紅葉の時期になると、思い出す寺がある。滋賀県近江八幡市安土町の教林坊だ。毎日新聞で「寺の花ものがたり」と題した連載を担当していて、2004年11月に取材で訪ね、若い住職の廣部光信さんの話を聞いた。
 白洲正子が「かくれ里 石の寺」と表現した寺ではあったが、無住に近い状態が続き、寺は荒れてしまった。20年ほど閉められた後、1995年に廣部さんが寺に入った。「屋根のヨシは半分腐って雨漏りがし、床は一部抜けていた」。そんな状態から復興ストーリーがおもしろかった。
 私財を投じ、地元の信者や町の協力を得ての作業だった、客殿は全面改修に近かった。苦労話の中で、取り上げた言葉が出た。「本堂の垂木(たるき)は自分で作った。お金がないので、柱は手作り。でも素人仕事で」。そう言って指差した柱を見ると、柱は長さが足りず、継ぎ足してあった。
 取材の年から、寺は再び公開した。努力が実って、今では教林坊は滋賀県でも有数の紅葉の寺になった。
 紅葉の教林坊を再訪したことがある。紅葉見物の参拝客に廣部さんが話をしていた。その部屋の座卓の上に、「寺の花ものがたり」の記事が置いてあったのがうれしかった。(梶川伸)2020.11.13

更新日時 2020/11/13


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