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編集長のズボラ料理(577) ツボミナの天ぷら

衣をつけすぎたか

 花のつぼみは愛らしい。
 5月の連休に長野県辰野町のリンゴ園を訪ね、リンゴの花を見せてもらったことがある。残念ながら一分咲き。その代わり、つぼみをたくさんつけていた。
 つぼみは濃いピンクをしていて、花を開くと白くなる。両方を一緒に写真に撮ると、何とも可愛い。しかも、背景は雪が残ったアルプスの山。気分爽快。リンゴ園の奥さんが作ってくれたタケノコご飯をガバガバ食べた。お代わりまでして。
 つぼみには懸命さがある。僕の散歩道にはモクレンの木が何本かある。春に花が散り、夏になるともうつぼみをつける。冬を越し、懸命に春を待つ。産毛の生えた灰緑の皮が開き、ほんのりと黄緑を帯びたつぼみが外に出てくる。
 冬のつぼみは、耐えている。滋賀県東近江市の百済寺に山椿を見に行った時、つぼみは雪を被っていた。やがて赤い花となる。雪の上に散った赤い花の美しさ。雪に耐えたおかげの鮮烈な赤。
 つぼみの良さを書いてきたが、がっかりしたことがある。遍路旅の先達(案内人)で、[「花へんろ」と銘打ったシリーズを。参拝と一緒に、寺の花やルート近くの花も楽しむ遍路だった。2月中旬、徳島県阿南市の明谷梅林に寄った時のこと……。
 徳島県内では有数の規模を誇る。訪ねると、梅まつりの旗が建っていたいた。ところが、ほとんどの木がまだ「つぼみ固し」。「つぼみ膨らむ」の木も1割程度。花をつけているのは、ピンクの花の木2本が7分咲き、「白八重」と名札のついた白梅2本が3部咲きで、それがすべて。
 駐車場と小さな売店をしている女性が「これでは駐車料、取れんわ」と言って、無料にしてくれた。それだけではなく、花をつけた」と言って、プラン作りの失敗をごまかした。
 奈良市の近鉄百貨店奈良店に、奈良の農産物を売るコーナーがあり、蕾菜(つぼみな)を買った。緑色のつぼみのような形をしている。使用法が書いてあり、それを参考にして天ぷらを作った。
 蕾菜を縦半分に切り、小麦粉をまぶす。小麦粉に少しコーンスターチを混ぜ、水を加えて混ぜ、衣にして揚げる。
 苦みと青臭さが持ち味。それが春を待つ植物を連想させる。連想の延長で、明谷梅林を思い出した。もらった梅の枝は、その夜の宿、徳島県海陽町の「遊遊NASA」で食卓を飾った。でも、誰も梅など見ていなかった。メニューのメモが残っている。カンパチ、アオリイカ、メジロの刺し身、1人用のタイ鍋、スズキのソテー、ブリの南蛮焼き、ナマコ酢、イカの塩から……。これでは、梅など見んわなあ。(梶川伸)2022.01.30

更新日時 2022/01/30


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