このエントリーをはてなブックマークに追加

心にしみる一言(356)  旨味は甘味

御酒蔵では酒の飲み方を教えられた

◇一言◇
 旨味は甘味

◇本文◇
 阪神大震災の記念日のころになと、被災地のこと以外に思い出すことがある。大阪市西区にあった日本酒を飲ませる店「御酒蔵(さかぐら)」のことだ。経営者の佐竹克人さんに、酒についてたくさんのことを教えてもらった。
 震災の前に飲みにいった時、佐竹さんから酒蔵を一緒に見に行こうと誘われた。喜楽長の酒蔵、滋端麗賀県東近江市の喜多酒造だった。もちろん誘いに乗り、行くのを楽しみにしていた。
 そこに大震災。店の中はグチャグチャに壊れ、私は震災報道に追われ、酒蔵見学どころではなくなった。しかもしばらくして私は転勤になり、出会う機会がなくなった間に、佐竹さんは亡くなり、酒に関する言葉だけが残っている。
 取り上げた言葉も、記憶に残っている。辛口の酒、淡麗の酒が人気を集めているのに、それに反するような言葉だった。
 「本醸造にもいい酒がたくさんある」。純米酒が人気の風潮の中での一言だった。「醸造用アルコールをほんの少し加えることで、味が引き立つことがある」というのが理由だった。
 「おいしい酒を教えてほしいと言われても答えようがない。今年のいい酒を教えてほしいと聞かれれば、いくらでも言える」。年によって、酒のできばえが違うと言いのだ。 
 店の一角に、ガラス張りの大きな冷蔵室があった。中に一升瓶がズラリと並んでいた。吟醸酒を中心に300種類。その年のおいしい酒だけを集めている。
 客は冷蔵室に入り、好みの酒を選び、ガラスの1合入り容器(実際には8勺=しゃく=くらいだったかもしれない)に、なみなみと入れる。それを自分のテーブルに持ち帰り、小さなグラスについで飲む。容器1杯が500円均一だった。
 冷蔵室は0度にコントールしてあった。「酒は冬眠している。まず、その温度で飲む。次に7度くらになったもの、最後に常温に戻したものを。それぞれ別の酒だと思うはず」。これもその店で教えられた日本酒の飲み方だった。(梶川伸)2022.01.18

更新日時 2022/01/18


関連リンク