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編集長のズボラ料理(584) エビとチンゲンサイのホワイトソース

ホワイトソースはだまができないようによくかき混ぜる

 踊り食いというものがある。生きたままのものを食べることで、食通は好む。僕は刺し身のような「生」は好きだが、踊りとなると、二の足を踏む。
 すしで1番好きなのは生ダコだ。回転ずしにしか行かないが、あれば必ず食べる。
 先日、テレビ番組で、タコの踊り食いを見た。店に人が水槽から生きたタコを取り出し、客にはさみを渡して足1本を切ってもらう。それを刺し身にして出す。僕には切る勇気がない。そのちゅうちょは何だろう。
 回転ずしで僕が目にするのは、レーンに乗って運ばれてきた完成品としての生ダコの刺し身で、できるまでの過程を知らない。ひょっとすると、タコを水槽から取り出し、はさみで切っているかもしれない。その状況を見ていないし、考えないようにしているから、食べられる。
 シロウオの踊り食いは、春を告げるものとして通は珍重する。僕は1度だけ経験したことがあり、鼻をつまんでポン酢と一緒に飲み込んだ。鼻をつまんでも意味はなかったが。ポン酢の味で、別に春の味がしたわけではなかった。
 踊りと刺し身の違いは、動いているか、動いていないか。カキの養殖場で生ガキを食べる。これは生きているのだが、迷いはない。動いていなから。
 アワビを焼いて食べると、身をくねらせるから踊りというが、動いているから手が出ない。高いからではない。いや、それもある。
 若いころ、徳島勤務だったことがある。会社の近くの居酒屋さんによく行った。卸売り市場の権利を持っているので、本業は昼の魚屋さん。夜は売り場の横のカウンターで酒が飲めた。新鮮な魚介類をあてで、時にはエビの踊りもあった。先輩記者はムシャムシャ食べていたが、僕はこわごわ殻をむいた。殻が身からはがれにくい感触は、今でも残っている。
 面倒くさいからエビは殻をむいたものを用意し、背ワタを取る。チンゲンサイは茎と葉の部分に分ける。鍋にバターの塊を入れ、ゆっくりを熱しながらすりおろしタマネギを加え、かき混ぜる。バターとタマネギが一体化したら小麦粉を入れ、よく混ぜて団子状にする。牛乳を加えてさらによく混ぜ、ホワイトソースを作る。
 別の鍋でチンゲンサイの茎とエビを煮る、味付けは鶏ガラスープとコショウ。しばらくして葉も加える。チンゲンサイの茎と葉、エビをホワイトソースの鍋に移し、煮汁も少し加えて、さらに煮る。チンゲンサイを取り出して皿に並べ、上からホワイトソースをエビとともにかける。
 この料理はエビのプリプリ感が大事。踊りはもっとプリプリしている。「もっと」の違いだけだから、エビの踊りは目をつぶれば食べられるかもしれない。鼻ではない。(梶川伸)2022.03.04

更新日時 2022/03/03


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