このエントリーをはてなブックマークに追加

心にしみる一言(366) 年寄りはお参りするのが仕事じゃ

手前が埋め墓、後方が拝み墓

◇一言◇
 年寄りはお参りするのが仕事じゃ

◇本分◇
 1996年から97年にかけて1年5カ月、高松市勤務だった。その間に香川県の島をできるだけ訪ねてみた。
 佐柳(さなぎ)島へは2度渡った。香川県の島に見られる両墓制という埋葬方式に興味を持ち、それがはっきりと残っているのが佐柳島だったからだ。
 両墓制は遺体を埋める埋(うず)め墓と、拝み墓(参り墓)の2つに分かれている。それぞれが密集し、その塊がこの島では隣り合わせになっていた。
 最初に訪ねた時、お参りに来ていたおばあちゃんいに聞いた。ここで書くのは、25年ほど前のことになる。
 埋め墓は円筒の桶に遺体を入れ、土を掘って埋葬する。周囲の土が崩れないように木の枠をまず埋め、その中に桶を入れる。ビニールをかぶせ、ふたをして、その上にまず黒い石を積み、さらに白い石を積む。だから、墓は丸い形をしている。石積みの上には、墓石の小型のものを建て、戒名を彫る。
 島にいた桶を作る人がなくなり、長方形の普通の寝棺を買ってくるようになった。だから、新しい墓は以前のものよりスペースをとる。石は海岸から運んでくる。数年たつと、遺体や桶、棺が腐り、石積みや墓石が沈む。そうすると、石を積み足す。いまはコンクリート護岸ができ、石を運んでくるのが大変。ただし、コンクリート護岸のおかげで、台風の時にも石積みが流されなくなり、メリットもある。
 都会で亡くなった人は遺骨で帰ってくる。それを埋め墓に埋葬する「死んだら土に帰る。自然と土になって消えていく」という考えだから、埋め墓に入れる。
 島の人は、毎朝墓にお参りをする。「年寄りはお参りするのが仕事じゃ」。おばあちゃんは取り上げた言葉を口にした。墓地からの帰りにも、右手に花を持ち、左手に水の入ったポリタンクを持った何人もの女性に出合った。
 それから3カ月ほどたって再訪した。墓地に行くと、おばあちゃんがいて、「お墓参りですか」と声をかけた。すると、また「年寄りはお参りするのが仕事じゃ」と返ってきた。お年寄りにとっては、それが日課のようだった。(梶川伸)2022.03.22

更新日時 2022/03/22


関連リンク