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編集長のズボラ料理(100) オクラのマヨネーズ焼き

オクラは大き目のものを買った方が作りやすい

 あしなが育英会の学生と遊んでいた時期がある。
 この団体は、親を亡くした子どもたちの奨学金制度を運営している。育英会は神戸に、大学生寮を持っていた。寮生の読書感想文の指導をしてほしい、と頼まれたことがきっかけだった。
 毎月、課題図書を伝え、寮生が感想文を書く。原稿用紙2枚。それも2冊分だから大変だ。きついノルマを課す寮である。
 感想文が僕の家に送られてくる。僕は毎月、50ほどを読んで添削する。と言えば聞こえがいいが、僕に人の文章を直すような能力はないから、内容は手紙みたいなものだった。
 これは楽しかった。僕の3分の1ほどの年齢の若者たちと、交換日記を続けたのだ。ただし、寮生と出会うことはなかった。ところが、時事問題に関心のある寮生が何人かいるという。そこで1カ月に1度、寮に行って、5~6人と一緒に意見を交わすことになった。実際に会って、話ができる。これも楽しかった。
 夕食はいつも、寮生のために用意されたものを、一緒に食堂で食べた。その後、1時間半ほどが時事問題講座だった。講座名は、寮生の1人がつけてくれた。「シンブンブン(新聞々)」。これは気に入った。「シンブンブン、ハチが飛ぶ」と歌いながら、講座という名の雑談をした。
 終わると、僕には楽しい時間が待っていた。「軽く、行こか」と誘う。寮生の案内で、たいていは庶民的な居酒屋「八剣伝」に行く。時には、焼きトリの居酒屋「鳥貴族」に行く。こちらは寮生にとってみると、やや高級らしい。
 当然のことながら、僕が払うから、「好きなもの注文して」と偉そうに言う。寮生の注文はいつも面白かった。夕食の後ではあるが、学生だからたくさん食べられるはずだ。ところが、「漬け物、枝豆、焼きトリ」と、しごく控え目に注文する。
 焼きトリは人数分を頼まない。焼きトリがテーブルに届くと、まず食べる準備をする。串には3つか4つのトリ肉が刺してある。それをすべて外すのだ。そうすると、参加人数を超す数になる。
 寮生はみんな苦労をしてきている。経済的にもそうだから、奨学金制度を利用している。だから、僕にあまり負担をかけないように安いものばかり食べる。涙が出そうになるくらい、いい若者たちだった。
 僕が教えている大学の学生を、大阪市・鶴橋の焼き肉屋に誘ったことがある。焼き肉をしこたま食べた後、「最後にビピンパか冷麺か食べるか?」と水を向けた。「もう満腹」と言うかとももったら、平然と言った。「どっちも」
 店を出る時、大将がみんなにタオルを1本ずつプレゼントしてくれた。それだけ、売り上げに貢献したということだろう。えらい違いである。
 あしなが育英会の学生たちは大学を卒業したが、何人かはフェイスブックでつながっている。先日、調理師免許をとったと書いていた元寮生がいた。これ幸いと、「ズボラ料理に書けるような簡単な料理を教えて」と、頼んだ。すると、返信があった。「ズボラ料理を見ると、居酒屋メニューが多いですね」
 鋭い、その通り。居酒屋で覚えたものと、銀行での待ち時間に読むオレンジページか、薬局で読む料理屋紹介の本か、だいたいその中から盗んで、さも自分が創作したように書いている。今回も、何かの本で読んだものだったような気がする。
 オクラはへたの部分を取り、縦に切れ目を入れる。反対側の皮だけが残るくらい深く切って開く。とろけるチーズを詰め、マヨネーズ、オリーブオイルを混ぜたものも塗って、オーブンで焼く。オクラはごく軽くゆでておいた方が無難である。この料理も、やっぱりビールがほしくなる。(梶川伸)2014.09.17

あしなが育英会

更新日時 2014/09/17


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