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心にしみる一言(7) 父は戦闘帽の布を破って、10円札をくれた 

2001年6月21日の毎日新聞

◇一言
父は戦闘帽の布を破って、10円札をくれた 

◇本文
 中野豊さん中国東北部で終戦を迎えた。19歳だった。父は直前に召集され、行方知れずだった。
 旧ソ連軍の捕虜になり、ある収容所に入れられた。そこで父と再開した。軍人と民間人では、収容棟が違う。夜、父のいた棟に忍んで行った。
 父は戦闘帽の汗取りを破った。10円札2枚が隠してあり、「半分やる」と差し出した。「日本で落ち合おう」。信仰していた宗教の詰め所を記憶にとどめ、中野さんは自分の棟に引き揚げた。
 翌朝訪ねると、軍人は別の場所に移されるために、出発した後だった。父がシベリアで死んだことは、約束の詰め所で聞かされた。「10円札は、おやじからの最後の小遣いになってしまった」
 戦後半世紀近くたって、シベリアを訪問して叫んだという。「おやじ、一緒に帰ろう」(梶川伸)
=2001年6月21日の毎日新聞に掲載したものを再掲載2015.02.07

10円札

更新日時 2015/02/07


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