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寺の花ものがたり(17) 谷性寺(京都府亀岡市)桔梗=6月下旬~9月上旬

2004年7月10日撮影

 明智光秀の「首塚」の碑が境内に立っている。明智の家紋が桔梗(ききょう)だった。先代の住職、城光寺哲立さんが妻の美代子とともに境内で桔梗を育て、寺を盛り立ててきた。
 簡単なことではなかったようだ。「先代は市役所に勤め、その退職金も寺につぎ込んだ」と美代子さんは言う。「光秀は主君(織田信長)討った人間として、汚名を着せられてきた」。そんな光秀に対する負のイメージも、苦労に輪をかけたのかもしれない。
 美代子さんは、あまり知られていない光秀の一面を語る。「光秀は、戦いで亡くなった家臣の供養のため、1人1人の名前を記して、経筒に入れていた。地位による差別をせず、いとおしんで」
 桔梗は昭和30年代から、こつこつと植えた。境内を埋めた様子を、先代と懇意だった瀬戸内寂聴さんは「紫の涼線」と表現したという。いまは、200株くらいに減ってしまったが。
 動物がいたずらをする。「去年はシカが来た。子どものシカはつぼみを食べた。大人は引っこ抜いた。そこでネットを張った。1、2月にはモグラが悪さをする。イノシシも出る」。心配ごとは絶えない。
 秋には「お礼肥え」をする。「花を楽しませてもらったのだから」と。霜にも注意が必要だ。愛情を注ぎ、最初の一輪が朝早く咲く時を待つ。自分の育てた桔梗を俳句に詠んだ。「山寺や凛(りん)として咲く桔梗かな」
 今年はうれしいことがあった。地域起こしの一策として、寺の周りの休耕田を使った「ききょうの里」がオープンした。光秀と桔梗に注ぎ込んできた愛情が、大きく花開いた。(梶川伸)

◇谷性寺◇
 京都府亀岡市宮前町猪倉土山39。0771-26-2054。JR亀岡駅からバスで猪倉下車。境内自由。本尊は不動明王。内陣には、哲立さんが彫った釈迦涅槃像(しゃかねはんぞう)などの仏像が並ぶ。
=2004年8月10日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっていることもあります。ご了承ください)2015.06.17

明智光秀 瀬戸内寂聴 ききょうの里

更新日時 2015/06/17


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