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編集長のズボラ料理(451) キュウリのゴマ漬け物

調味料は少量ずつ、っけるゴマはたっぷり

 ズボラ料理は、どうも酒のあてが多い。勤めている時は、仕事帰りに一杯やることが多かったからやむをえない。そう勝手に思っている。
 よく行ったのは、大阪市・北新地の大輝という店だった。北新地とは言っても、実際には新地の外れで、新地度は1割程度しかない。店のおばちゃん(女将)と常連の客だけが、「新地の店」と言っている。
 例えば友人が遊びに来たとする。「新地に行こか」と、力強く誘う。一息置いて、つけ加える「外れだけど」。つけ加えの声は、相手に聞こえてもいいし、聞こえなくてもいい程度。
 店はペンシルビルの3階にある。1階ごとに店は1つしかないから、エレベーターはない。非常階段のようなところを、歩いて登る。ここで、「気をつけてや。足を滑らせて大けがした人がいるから」と注意する。その一言で、友人は新地の幻想から覚める。
 店に入れば、カウンターだけの店。大皿におかずが乗っている。トイレに行く時は、座席をカウンター側に寄せてもらって、体は横にして壁との間を通っていく。
 そんな状態で、まずビールを頼み、おばちゃんのコップについで、その次に友人、最後に自分のコップについで乾杯する。そしておもむろに友人に言う。「おばちゃん、90歳を過ぎてるんだから」を告げる。友人は納得し、「新地」は頭から消え去るのである。
 定年になっても、ズボラ料理の中心線は酒のあてを保っている。たまに飲みに行く時も、新地に行くからだ。外れの。
 定年後の生活で、分ったことがある。外で飲む回数と、散歩の回数は反比例する。半分田舎に住んでいるから、「新地は遠くなりにけり」だが、散歩コースには事欠かないので、よく歩く。
 散歩道には農家が多いので、食べ物はたくさんある。正確に言えば、作物をよく見る。初秋には、ゴマが実っていた。新地のおばちゃんはハクサイなどの煮物に、よくゴマをふっていた。よし、ゴマを使おう。
 キュウリの皮をゼブラ状にむき、軽く塩をふって、しばらく置いてから乱切りにする。薄口しょうゆ、鶏がらスークの素、みりん、ラー油を混ぜたものに、しばらくキュウリを漬けておく。皿に盛り、ゴマをかける。
 酒を飲むには良い季節なってきた。熱かんもいい。散歩の回数を少し減らしてもいいか。(梶川伸)2020.11.01

更新日時 2020/11/01


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