編集長のズボラ料理(831) メカブの天ぷら
ズボラ料理の829回で、うちのメカブブームに触れた。作った料理は、レンコンのメカブ梅肉和えだった。
でも、本当に作りたかったのは、メカブの天ぷらだった。その回の最後に書いたように、失敗に終わった。それどころか、天ぷら鍋はパチパチパチパチと爆発状態で、悲惨なことになった。飛び散った油が腕にも当たり、アチッアチッと悲鳴を上げた。
大失敗の理由は明らかにだった。定年後クッキングの素人なのに、ハードルを上げすぎたのだ。
実は、こう考えた。カットしてあるトロトロのメカブを買い、冷凍してから食べやす大きさに切って、厚めの衣をつけて揚げる。そうすると、外はパリッ、中は解凍されたトロトロメカブ。それが到達点だった。
現実は甘くない。解けた水分が油と激しく反応してしまった。そんなこと、わかっているじゃないかと、指摘されそうだが、理想のメカブ天を揚げてみたかったのだから仕方がない。
今回は反省して、ハードルを低くして再挑戦することにした。なぜ、それほどこだわるのか。
大阪市大正区の沖縄料理の店「うるま御殿」に、定年前はよく行った。島歌の演奏があり、ステージが終わるごとにカチャーシーが始まり、みんなで踊る。お客さん参加型の店だった。
酒のあてにいつも頼むものがあった。スクガラス、ジーマミ豆腐に、そしてモズクの天ぷら。前の2つはそのものが、その店で初めて口にした食物だった。最後の1つについては、モズク自体はよく食べるが、天ぷらは初めてだった。
モズクとメカブはよく似ている。だからメカブ天は作りたい。でも2連敗はしたくない。そこで、安全策をとった。冷凍はしない。
メカブ、小麦粉、少量のコーンスターチをボウルに入れる。味わいに刻んだ紅ショウガ、冷蔵庫にあった頂き物のアミエビの佃煮、コンブ茶の粉を加え、よく混ぜる。大きめスプーンですくい、油で揚げる。これで、油が飛び散る悲惨な自体は免れた。トロトロさは完璧ではなかったが、トトロくらいまでにはなった。
しばらく前、娘夫婦をうるま御殿に案内した。島歌の演奏の際は、客も手を挙げれが舞台に立てる。あまりいないが。そのことを娘夫婦に言うと、夫が手を挙げてしまった。歌ったのは「島唄」。決してうまくないのに、ようやるわ。そのステージで手を挙げた客は娘婿だけ。歌い終わったので僕も拍手をしたが、歌にではなく、その勇気に対してだった。(梶川伸)2025.10.15
更新日時 2025/10/15