編集長のズボラ料理(823) ニンジン餅
大根を細く切り、しょうゆをかけて、カツオ節をふる。これは僕の大好物である。
毎日新聞に勤めていたころ、毎日新聞文化教室の社長から「韓国料理の講座をしたいが、先生を頼める人がいたら紹介してほしい。ただし、会社には厨房がないので、その人の店で」と相談を受けた。どうも僕の場合、食べ物に関する相談が多い。例えば、後輩から「7、8人で行ける安い居酒屋さんを教えて」とか。後輩なら仕事の相談をせい。
韓国料理については、あてがあった。第1候補は大阪市・鶴橋の店。第2候補は、JR天満駅の近くの店。どちらも時々行っていたので、女主人とは顔なじみだった。結局、第2候補に店に決まった。第1候補の店は、入り組んだ鶴橋市場の中にあり、受講生が行きつけない恐れがあるという判断だった。
打ち合わせもあり、第2候補の店にはそれまで以上に行くようになった。僕が「大根が好きだ」と言ったのだろう、ある時からカウンター席に座ると、細切り大根がつまみとして全自動で出てくるようになった。ほかに、ナムルでもキムチでも焼き肉でも、いろいろあるではずだが。
細切りが飛び抜けて好きだが、大根はほかの食べ方でもオーケーである。それなのに、中華料理の大根餅は食べたことがなかった。どうすれば大根が餅になるのか理解できなかったからだ。円盤状に切って、呪文をかけるのか、と想像したが、恥ずかしいからやってみることはなかった。
何と初めて食べたのは、70歳を過ぎてから。それまでの70年間、ずっと呪文を考えていたが、解明できなかったからだ。
神戸市・南京町で買い食いをしてわかった。大根はすり下ろしてから、粉を使って固めているらしい。何ーんだ、である。70年間、何を考えていたことか。
大根がわかれば、次はニンジンとなるのは自然の流れ。ニンジンをすり下ろしてボウルに入れる。小麦粉とカタクリ粉を加える。それだけでは物足りないので、ベーコンのみじん切りを入れ、白だしも足してよく練る。円盤状に成型して、フライパンに油とゴマ油をひいて焼く。
1つだけ心配がある。大根餅の際に呪文を考えすぎて、粉は何かは考えなかった。だから、粉の正体を知らない。調べればいいのだが、それはズボラの流儀に反する。ニンジン餅は大根餅と同じ作りだから、間違っている可能性は大いにある。(梶川伸)2025.09.15
更新日時 2025/09/15