このエントリーをはてなブックマークに追加

編集長のズボラ料理(111) 卵白とナガイモの白豆腐

好みで、ネギ、サンショウの実、ユズの皮などを混ぜて蒸してもよい

 知らないことはおもしろい。料理の場合もそうで、周りの人がえらい迷惑する。
 近所のおばちゃんの話は、その典型的な例かもしれない。内容は主人のことである。
 おばちゃんが実家に帰る用事ができた。子どもたちの食事が心配だった。すると主人が、「任しとけ」と、胸をたたいた。でも、おばちゃんは心配だった。「台所に立ったこともない人なのに……」
 主人は頑張った。「卵焼きを作るゾ」と。しかし、作ったことがない。そこで、想像たくましく挑戦した。想像から実際へ、次のような過程をたどった。
 見たり食べたりする卵焼きは黄色い。卵の黄身をだけ使っているに違いない。卵を割って、何とか黄身と白身に分けた。案外、黄身は少ない。卵がたくさん必要だ。結局10個使った。「これで、どうだ!」
 「モソモソした卵焼きだった」。実家から帰ってきたおばちゃんに、子どもが言った。もう1つ、子どもが告げ口したことがある。「味をつけてなかったよ」。それ以来、おばちゃんは主人に料理を頼まないらしい。
 知ったかぶり、というのはどうだろう。これは知らないくせに、知ったように振る舞うから、知らないだけよりも、もっとたちが悪い。
 仲間と泊まった宿で、すき焼きを食べることになった。僕は近所のおばちゃんの主人と同様、「任しとけ」と胸をたたいた。有名すき焼き店のやり方を、テレビで見た直後だったからだ。
 すき焼き鍋を暖めて、まず砂糖のザラメを乗せ、その上に肉を並べ、上からしょうゆを回しかける。さすが有名店。焼くとはこういうことなのだ。割り下など、もってのほかだ。
 僕自信はやったことがないから、ちょっと誤算があった。すき焼きセットについていたのはざらめではなく、普通の砂糖だった。別に大した違いではない。そう思った。鍋を熱し、砂糖を敷いた。慎重さもやや欠いていた。火が強すぎたのだ。さて、肉を焼こうとしたら、砂糖が焦げている。焦って砂糖を取り除こうとしたたが、火を弱めていなかったので間に合わない。砂糖は鍋の底にこびりついてしまった。
 大した違いである。恥ずかしながら、鍋を変えてもらった。仲間だけでなく、店まで迷惑をかけたと同時に、割り下の偉大さを再認識した。
 僕は気になっていることがある。近所のおばちゃんの主人は、10個の卵の白身はどうしたのだろう。別の料理に使ったとは思えないのだが。
 大阪市・天神橋の天ぷら屋「天平」に時々行く。庶民的な店で、僕にとっては居酒屋さんである。近所の老夫婦が夕ご飯を食べに来て、天ぷら定食とビールを1本頼んでいるのを見て、店が好きになった。
 天平には、「白豆腐」なるものがある。卵の白身だけを使っていて、しごく安い。聞い たことはないが、黄身を使った残りで作っているのだと思う。
白豆腐をヒントに、また知ったかぶりで作ってみた。ナガイモをすり下ろし、少しだけ塩を加え、卵の白身と一緒によく混ぜる。茶わんにラップを敷き、ナガイモ卵白を流し込んで蒸すか、レンジでチーンをする。蒸しあがったら、ラップを引っ張ってナガイモ卵白出し、皿に盛る。だし、砂糖、みりん、しょうゆを加えて熱し、カタクリ粉を加えてあんを作り、上からかける。
 さて、黄身はどうするか。近所のおばちゃんの主人に頼むしかないか。

編集長のズボラ料理 天平

更新日時 2014/12/14


関連地図情報

関連リンク