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編集長のズボラ料理(318) 厚揚げのアヒージョ

具は熱くなるまで容器の中に漬けておく

 僕らの世代の新聞記者は、居酒屋派が多い。僕もそうで、人気のアヒージョなど食べたことがなかった。初めて口にしたのは5、6年前のこと。
 地域密着新聞「マチゴト」を手伝うことになり、年齢が20歳も30歳も若い記者たちに誘われて行った店で、遅いアヒージョデビューを果たした。注文したのは女性記者だった。エビのアヒージョが好物らしく、それから何度か食べることになった。
 若い記者はワインを飲むからいいが、日本酒とビール党の僕には、どうもしっくり来なかった。当然のことながら、家で作って食べることなど思いもよらなかった。
 この夏、弟夫婦が子どもと孫を連れて遊びに来た。弟の奥さんはなかなか料理好きで、その分だけ食べ物にうるさい。遊びに来ると、食べ物を土産に持って来て、僕を指導したがる。
 今回はチーズフォンデュー用のチーズと、アヒージョの素。それにわざわざ100円ショップで買った白い陶器の容器(深みのある皿)2つも持参した。持参品を見せるやいなや、解説と指導が始まった。
 チーズは大きい方の容器に入れ、牛乳と白ワインを加えて熱する。アヒージョの素は小さい方の容器に入れてオリーブを加えて熱する。容器の大きさまで指定するから、実に細かい。
 ホットプレートを用意して熱し、その上に熱した容器を置く。そして、パンやソーセージ、ゆでたジャガイモなど、好きなものをつけて食べる。つけるのはチーズだけ、あるいはアヒージョだけでもいいし、チーズをつけた跡で、アヒージョの油をスプーンで垂らしてもいい。なかなか細かい。「食べ方くらいほっといてくれ」と言いたくなるが、敵は言うことだけ言えば、僕が用意した食べ物に関心を移し、ワインを飲む。
 2週間ほどして、奥さんから電話があった。「アヒージョ、やってみた?」
 まずい! そもそもアヒージョには縁がないので、ほっておいた。そこで、「フォンデューはやったけど」とごまかし、遊びに来ていた娘に電話を代わってもらった。そして聞いた。「エビ以外にアヒージョに適しているのは?」
 いくつか挙げてくれたが、「厚揚げ」の一言で、明るい未来が見えてきた。エビのアヒージョはあまり好みではないからだ。
 電話の翌々日、早速やってみた。アヒージョの素の販売はハウス食品だった。指定された小さい方の容器に、素とオリーブオイルを入れ、ホットプレートの上に置いて熱していく。具の主役は厚揚げ。容器に入れて熱くして食べる。外にはマッシュルームとソーセージ。素の袋にも「エビを入れて熱する」と書いてあったが、ここは意地で拒否した。
 指定された容器は小さくて、食べにくかった。今度遊びに来た時に、文句を言ってやろう。(梶川伸)2018.10.30

更新日時 2018/10/30


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