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編集長のズボラ料理(358) 当帰菜の天ぷら

サッと揚げないと、香りが飛んでしまうの注意

 昼ご飯は大事だが、怖い。毎日新聞旅行の遍路旅の先達(案内人)として、行程表を作るのだが、つくづくそう思う。
 昼食はなるべく地元のものや、特徴のあるものを選ぶ。しかも、遍路だから高いものは不似合いで、B級グルメになることが多い。これは、なかなか勇気がいる。参加者の好き嫌いは、千差万別だからだ。
 例えば徳島市で、お好み焼き「はやし」を昼食場所にした。人気の店で、昼ご飯の時間帯は満席になるし、持ち帰る人も事前に電話をしておいて、次から次に取りに来る。そこを無理を言って、予約させてもらった。もちろん、1番忙しい時間帯を外してのことだった。
 満を持して参加者を案内した。食べたのは「豆焼き」。オーソドックスな「豚玉」に、甘い煮豆が入っている。徳島独特のお好み焼きで、大阪にはない。はやしはその名店なのだ。
 先達として鼻高々で、「どうだった?」と聞いてみた。反応は「甘い豆に、何でソースをかけるの」。僕は「それが徳島のお好みやんか」とわざわざ大阪弁で反論したが、評判は悪かった。
 ロケーションも大事だ。結願して高野山にお礼参りに行き、宿坊で泊った。翌日は帰りに奈良県五條市に足を伸ばし、農家民宿「農悠舎王隠堂」で、地元野菜のランチを食べることにした。
 バスの遍路旅だったが、山の中に入って行くので、最後は少しだけ歩いて店に行く。なかなか、良いアプローチではないか。
 満を持して、上り坂の三叉路でバスを降りた。バスは止めやすい場所を探すため、一行とは離れた。もう少しだけ歩けば昼ご飯、のはずだった。
 どうもおかしい。それらしい家は見えてこない。でも、もう少しと信じているから歩く。でも見えてこない。やっと分かったのは、教えてもらっていた目印を勘違いし、500メートルほど手前で降りてしまったのだ。
 暑い日だった。バスの運転手さんにスマートホンで電話をかけたが、通じない。電波が届かないのだろうか。汗だくになりながら、500メートルの上りを歩くはめになった。
 やっと店に着いたら、クーラーがない。山の中で冷房は不要なのだが、このときばかりは冷たい風がほしかった。参加者に「いい所でしょう」と聞くのはやめた。
 汗が引くと、参加者の我に返り、不機嫌な表情は消えた。縁側の窓は全部開けて放たれ、谷を渡って吹いてくる心地よい。「クーラーより自然の風」と言ってはばからない。さっきはあれだけブーブー言っていたのに。僕への強い逆風は、到着後10分でやっと収まった。
 地元野菜の普及に力を入れている民宿で、料理の中に大和当帰菜があった。当帰は薬草として使われてきたが、生薬としては使えない葉を天ぷらにしているのだという。
 当帰菜はモミジのような形をした葉で、和風ハーブと言われるほど強い香りがする。葉に軽く小麦粉をふる。小麦粉にコーンスターチを少し混ぜ、水を加えて天ぷらの衣を作る。当帰菜に衣をつけ、油でさっと揚げる。塩など好みのものをつけて食べる。
 これさえ覚えれば、汗を流して食べに行く必要はない。クーラーでもつけて涼しい中で食べるのをお薦めする。ただ、当帰菜は簡単には手に入らないのが難点で、その場合には、農悠舎王隠堂まで登っていく覚悟が必要かも。(梶川伸)2019.07.03

更新日時 2019/07/03


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