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編集長のズボラ料理(481) カブの鶏ミンチあん

あんの味の濃さは好みで

 四国遍路で85番八栗寺にお参りをすると、カブのような絵が描かれた幕を見る。長細い形ではなく、ポッチャリ型なのでカブと思うのだが、実は大根。桜島大根や聖護院大根を想像すればいい。
 寺の本堂の本尊は聖観音。その横の堂に、歓喜天が安置されている。いわゆる聖天さんで、商売繁盛願を願う人たちの信仰を集めている。
 歓喜天の好物がお酒と大根と甘いものだという。歓喜天とポチャリ大根は、そんな甘い関係なのだ。そこで、商売をしている人らが、大根を奉納する。
 しかし、本当に好物なのかどうかは確かめようがない。歓喜天は秘仏なので、僕らは見ることができない。住職でも、食べているのを見たことがないのではないか。
 第一、酒との組み合わせがおかしい。大根ならまだしも、甘いものは酒のあてになりにくい。ウイスキーならチョコレートもいいかもしれないが、日本酒には不向きだと思う。もしチョコレートを食べながら熱かんを飲むことになれば、チョコが溶けて、口の周りと中が茶色になってしまう。
 八栗寺の参道には、甘いものがある。寺は五剣山の中腹にある。歩いて登ると、結構な急坂で息が切れる。そのため、登り口でエネルギーを補給したくなる。そんな遍路心理を見透かしたように草餅の店があり、1つほうばることになる。
 寺にはケーブルで登ることもできる。年をとるに従って、しんどい歩きはやめて、安易なケーブルに頼るようになった。先達(案内人)でも同様である。では、草餅はどうるのか。
 ケーブルの窓から、店のおばちゃんに手を振る。次に指で一行の人数を知らせる。これは参拝の作法とともに、八栗寺参拝の重要な儀式となる。
 お参りの後、歩いて遍路道を下りる。これなら楽なもんだ。店に着くと、おばちゃんがあんこをヨモギの入った餅で包み、それぞれに渡してくれる。そして、「寅さんシリーズで、ここの草餅が出た」と自慢する。毎回のことだが、これも儀式の1つだと思っている。
 今回は大根ではなく、カブを使う。葉と茎は細かく切る。実の方は皮を厚めにむき、食べやすい大きさに切り、だしでゆでる。鶏ミンチを油で炒める。だしの素、酒、みりん、おろしショウガで味をつける。カブのゆで汁を加え、カブの葉と茎を入れて煮つめ、最後に溶いたカタクリ粉でとろみをつけて、あんを作る。皿にカブを盛り、その上からあんをかける。
 この料理は大根よりカブの方が合うはず。酒のあてにもなるし、聖天さんも好物に違いない。しらんけど。(梶川伸)2021.02.11

更新日時 2021/02/11


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