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編集長のズボラ料理(605) グリーン大根

時間を置くと、大根から水分が出るので、冷えたら早め食べた方がいい

 毎日新聞に入社し、所任地は和歌山市だった。それまでに足を踏み入れたことがない土地だったので、すべてが新鮮だった。食べ物もしかり。
 まずはミカン。冬に和歌山西警察署に取材に行くと、広報担当である副署長の机の横に、段ボールのミカン箱が置いてあった。副署長はあいさつ代わりに、ミカンを食べることを勧めた。1つ取って食べ終わると、また勧めた。
 和歌山県人のミカンの食べ方は、尋常ではなかった。1度に5~6個は普通だった。だからみんな指先を、黄色にしている。そして、言うことが一緒だった。「食べ過ぎて黄疸(おうだん)になった」。ほんまかいな、と思ったが、みんなが言うから、和歌山ではそうなのだろう。
 今でこそ和歌山ラーメンの代表格として有名になったが、井出商店にも行った。和歌山東警察署に近かった(現在は警察署が別の場所に移転)のが、1番の理由だった。
 ラーメンもさることながら、早なれが印象に残っている。サバの押しずしで、直方体の一口サイズになっていて、バレンを模したような緑色のビニールで包んである。
 サバのすしを「なれずし」という。長期間発酵させたものは「本なれ」といって、かなり癖が強い。井出商店のものは、発酵はほとんど進んでおらず、だから「早なれ」となる。説明するのが面倒くさい食べ物である。
 井出商店でもどこのラーメン屋さんでも、客は食べたいラーメンを注文すると、すぐに棚などに置かれた早なれを取りに行く。席の戻って、食べながらラーメンができるのを待つ。ラーメンが遅ければ、もう1つ取りに行く。それが和歌山ラーメンの正しい食べ方だと、みんなが言う。
 夏になると和歌山市民はもれなく、玉林園のグはリーンソフトを食べる。江戸時代から続くお茶の販売店で、抹茶を使ったソフトクリームはすこぶる人気なのだ。9割の市民は、玉林園はグリーンソフトの店だと思っているほどで、中には暴れん坊将軍・徳川吉宗も和歌山城に住んでいた時には、グリーソフトをなめていたと信じているふしがある。
 僕は京都府の最南部で暮らしている。隣町の和束町はお茶の産地だし、家から15分ほど歩くと、福寿園の研究所ガある。だから、お茶には慣れ親しんでいる。そこで、お茶を使うことにした。
 大根を太い千切りにして、ボールに入れる。抹茶とコンブ茶の粉を加えて混ぜ、少し冷蔵庫で冷やして食べる。抹茶は辻利の「冷やし抹茶」を使った。使用法が簡単だし、値段もリーゾナブルだし。
 福寿園の研究所にはカフェがある。抹茶クリームパスタを食べ、抹茶ラテを飲む。お茶に親しむ日々。さすがの吉宗も、うらやましがるだろう。(梶川伸)2022.06.10

更新日時 2022/06/10


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